和の言葉を題材にして50のお題





小春日和



山茶花が冬の凍て付きに寄りいっそう慎ましさを増す。
身の引き締まる思いは、冬に差し掛かれば毎日のように感じるが。
その寒さの中でも美しさを誇る気高い姿。
俺はそんな芯の強さのようなものに、ずっと惹かれていた。
どの季節の花よりも、冬を選んで咲く花。
心なしか主の姿とも被る。
左近は逍遥がてら山道を馬に乗り一人で登っていた。
馬の足音は静かな山に響いて心地がいい。
ここ二、三日はぐっと冷え込み朝夕は吐く息さえ白かった。
冬の足音はゆるゆるとだが確実に近寄っていた。
「ぁ…」
左近は馬に乗ったまま、道の脇に自生している山茶花に近寄った。
遠目で見れば白かったのに、傍目で見れば淡い甚三紅。
「…薄化粧」
まさしく冬の花に相応しい。
左近はそう感じ、早めに咲いた山茶花の一輪を眺めた。
「っと…」
左近の腕は何時の間にかその山茶花に延び、枝に手を掛けていた。
手折ってしまう寸前で我に帰った。
あと少し遅ければ、花泥棒になり兼ねない所だった。
左近はまた山道を上にと登り始める。
あのまま力を入れて持ち帰れば、気丈そうな花の美しさもそれまで。
左近はふと、三成の姿を思い浮かべる。
でも土産話なら枯らせてしまう事もない。
「…殿を連れ出してみましょうかねぇ…」
貴方のような花があるんですよ。何て言って。
なんでもない、小春日和に。