和の言葉を題材にして50のお題





枯れ野



虫の音一つ無い、無言。
言葉を発するのも憚ってしまう。
「……この世の終わりを見ているようだ…」
枯れるから、また春には芽吹くのだとは知っている。
だが…まだ雪に覆われて白銀の世界ならと。
思わずには居られない侘しさは兼続の身を食める。
「幾ら長く生きたとて…下天では唯の一昼夜だ…」
ぱきっと、枯れ木が踏んで折れた音。
だんだん近寄ってきて、その足音が急に止まった。
「兼続、今度は何を悟っておいでだ?」
悟るなどとはまた、大層なことを言う。
「慶次の様に生きられたなら、と。」
思っていたんだと半身を振り返り兼続は笑った。
足元から刺さるように冷たさ。
息は視界を曇らせる。
「…それはさ、」
慶次は近寄って肩に手を置いた。
「無理なのは知っているさ。私は…私だ。」
ならどうしてまた、そんな事言うんだ?と慶次は苦笑う。
「困らせてみたかった。些細な事でな。」
兼続はにこっと笑って、だが手は縋るように慶次に抱きついた。
もう、此処の景色を見に来るのは止めな。と慶次は兼続を抱き締め返した。
兼続は何も答えず、ただ目の前の暖かな優しさに身を委ねる。
「…」
慶次は兼続が帰ろうと言うまで、その腕を離す事は無かった。