和の言葉を題材にして50のお題





風 花



「風に花と風の花。どっちだと思う?」
三成は左近が起きたのを察知して、障子を引いた空を眺めて呟いた。
正確にいえば、三成が障子を引いて外の景色を見ていたから左近が目を覚ましたのだが。
「…ぇ?」
左近は着物を軽く直して、自分の羽織まで着込んで居る三成に近づいた。
夏とは打って変わって、斑な青磁鼠の空。
三成の吐く息は白く、疑問を投げかけた左近にはその瞳が向くことはない。
「…俺は、風の花だと思いますよ?」
左近は三成を後ろから抱き締めて、片手を庭に突き出した。
ちらりちらりと、風に遊ばれて六花が舞い落ちる。
そのひとつが、筋張った左近の腕に落ちた。
途端白き花弁は色を無くして涙を落とす。
「…気障………」
三成は俯いて小さく笑う。
そんな俺を好いたのは誰でしょうね?と左近はもう片手も三成を抱き締める。
空の割れ目から、薄い朝日が顔を出す。
そっと障子に手をかけて三成は閉めながら言った。
「俺もそうだと…思っていたんだ」
と、はにかむ様に。
左近はそれを見てふっと笑う。
「それじゃぁ、お相子ですねぇ」
嬉しいですよとの微笑みは、三成によって締め切られた障子の奥に消えた。
外では、風の花が巻き上がる。