和の言葉を題材にして50のお題





秋深し



私の愛するこの土地に、とても短い秋が来た。
元々此処に住まない慶次は、初めて此処で秋を迎えたときに面白いことを言った。
まるで、秋を凝縮させたようだと。
私はこれが通常と今まで過ごしてきた。
だからそれを理解するには少し時間がかかった。
「なぁ、慶次。此処の秋は忙しないんだろう?」
兼続の呼びかけに、舟を漕ぎ始めたのを岸辺に戻す慶次。
大きな欠伸をひとつしてそれから、なんか言ったかね?と頭を傾げた。
「目紛るしいのに、寝ていたら終わってしまうぞ?」
兼続は、秋の味覚を指折りであげる。
それから、山菜は採りに行こう。魚は釣りに行こう。と目を輝かせた。
慶次はぱちくりと瞬きをして、どうしたんだい急に…と頭を掻いた。
「去年の話だ、まさか覚えてない訳あるまい?」
それは、所用の帰り。
何も無い山道の途中で止まり、上を見上げながら生き急いでると零した言葉。
慶次は何気なく思っただけかも知れないが。
その言いようも無い切なさに胸が締め付けられたのを私は忘れない。
「あぁ…覚えてるよ?…」
再び眠たそうに欠伸をして、兼続を近くに呼んだ。
廊下で障子を引いて、外に行こうと誘った兼続は疑問ながらに近寄った。
「此処で正座」
言われるままに正座をして、慶次?と兼続は言う。
慶次はそのままごろんと膝枕に頭を預けた。
目を丸めて見下ろす兼続に見上げる慶次。
「敢えて、一日怠惰に過ごすのも粋だと…俺は思うよ」
兼続は何も言わず、溜息を零す。
「その言い方は、何でも良い様に解釈出来るぞ…」
そんな事を言いながらも、兼続は静かに慶次の額に口付けを落とした。