和の言葉を題材にして50のお題





待宵の月



来る人を待つ夜はどれだけ長くても満たされる。
どんなに月が凍て付いても、それを一緒に眺める奴が必ず現れるのだから。
だが、来ない人を馳せる夜は。たとえ一時ほどの間でも。
「長い…」
素直になれぬ性分をこれ程恨めしく思う夜も無いだろう。
風も無いのに散る椛。輝きを増す秋の月。
早く眠気が襲えば良いものを。
酒を飲んでも、睡魔は近寄ってもくれない。
「…月が夜に呑まれるのか…」
三成は月を見上げながら、独り言。
「…夜が月を生み出すのか…」
どちらがどうでもいい。
でも、一度気になりだしたら止まらない。
三成は、光と影はどちらが先かと猪口を片手に考えだした。
「だが…月は…消えては現れる…」
しかし考えたのは束の間。
酔いが乗じて何時の間にか違うことを考え出してしまう。
姿を晦ませては思わせ振りに覗いたりする月。
どうしてだろうか。
ずっと空にあれば良いのに。
あれば絶賛され、無いと物足りないと言われるのに。
「手酌とは、寂しい限りじゃないですか」
ふとよく聞く声に三成は顔をあげた。
「………お前は月だな…、顔ではないぞ…」
左近は苦笑いをして当然の如く隣に座る。
「…お強くないのに、そろそろ止めては…?」
かさ。と散り積もった椛の上に椛が落ちた。
「…待っていた月が…現れた…のにか…?」
左近は酔った戯言だなと小さく笑う。
何を仰りたいのか、俺では分かりかねますよ?
言って、床に置いてある徳利を摘み上げた。
先程まで仄かに光っていた空の月は、群雲に侵食され始めやがて形を潜めた。