和の言葉を題材にして50のお題





野 分



芒の穂が風に吹かれて玉露を落としたみたいに光る。
夕焼けの力を借りたとはいえ。
それは余り絶景で。
巣に帰る鳥の影も、黒一色の山も木も。
さらに興を添えて絶景なのに。
「慶次っ!」
手を振り上げて、芒の波から俺に近寄るあんた。
あんたのせいで全てが付随になってしまう。
振り返りざまに長い睫が日に照らされて煌いた。
野分に翻された、白い着物がふくらみはためいて。
その唇が俺の名を呼んで。
「すっかり日が傾いてしまった。熱中するといかんな!」
手に持つ護符に書かれた字が、夕焼けに焼かれて赤い色を帯びた。
「遅くなったから様子を伺いに来たのだろう?」
俺は、耳に入るあんたの言葉を聞いているようで聴けていない。
いや…多分受け付けられないんだ。
俺の目に飛び込んだその眺めは。
瞬時にして俺の全ての思考回路を停止させてしまった。
「どうしたのだ?…あぁ、天が焼けるように美しいな!」
振り返り沈む陽を見て。
もう一度振り返るあんた。
「…そうさな…胸が焦げる位に…美しいねぇ…」
さあ、馬に乗って帰ろうと言ってくれ。
あともう一度振り返る姿を見せられたら。
俺は。
衝動でしか行動できなくなっちまう。