和の言葉を題材にして50のお題





短 夜



貴方を知るには、この夜は短すぎる。
もっと延びれば良い。
このまま、暑さに熔けて冬の寒さで冷え固まるまで。
夜が、続けば良い。
「…左近…」
捕まえていなければ、風にでも靡いて攫われそうに軽い体が動いた。
腕の中、俺の髪を撫でていた貴方は潤みの残る瞳で俺を見上げた。
不思議だ。
外では熱すぎて、蝉が狂って鳴いているのに。
貴方とくっついて寝ているのは嫌な気がしない。
むしろ…好んでこの暑さを、熱さを。
胸に留めおきたい。
「…何でしょう?…寝苦しいですか…?」
でも、貴方の首筋を流れた汗に、抱き締めている腕を緩める。
「…戯け…」
言葉は決して優しくはないけれど。
貴方は少しだけ目を細めて笑う。
「…どうせ暫くは寝苦しい夜が続く…」
だから。
その暑さを心地の良い熱さに変えてくれ。
「………殿、そんな口説き文句何処で覚えたんですか?」
そんなこといわれたら。
「…お前を見たら浮かんだ…」
元よりあまり素直でない貴方の、はにかんだ顔。
今夜は暑いはずなのに、擦り寄ってくる貴方。
「とうとう朝まで、寝られませんよ?」
喩え今が真冬の長夜でも。
俺には短すぎます。