和の言葉を題材にして50のお題





天女の羽衣



昔話にもあるだろう?
そういわれて、そうだな。なんて笑えるはずがないだろう。
「慶次!私の着物を何処にやった!」
兼続は目くじらを立てて、怒鳴った。
だが、その姿はなんと笑止なことだろう。
着ていた寝巻きはすっかり脱がされて、仕方なく夜着を体に巻いて睨んでいる。
妖艶な姿な筈なのに、子供っぽい。
「いゃ…こうすりゃあんたはこの部屋から出られないじゃないか」
慶次は満悦な笑みを浮かべ、兼続の髪を撫でた。
「分別ぐらい付くだろう!?頼むから着物を返せ、評定に行かねばならんのだっ」
兼続は情けないやら、恥ずかしいやらでもう目に涙が溜まっている。
「男だろう?そのまま行けば良いじゃないか?」
たしか昨日は男だったと慶次は意地悪な笑顔。
「そなたという男はっ」
もう知らん。と兼続は夜着に手を通し、前を重ねて立ち上がった。
「ちょ、まさか本当にそれで…」
今度は慶次の顔が蒼褪める。
「あぁ、男だ。私は男だ。この姿で皆の前で失笑でも買ってきてやる」
慌てて慶次は止めろと立ち上がり抱き締める。
「分かった!分かった!!着物は返すから…」
最初からそう言え、この馬鹿。
兼続は慶次を睨んで早く着物を出せと言った。
渋々とだが隠してあった一式を出してきて、悪ふざけが過ぎたと謝る慶次。
でも。
兼続は未だ知らない。
二人で擦った揉んだしている間に、評定の時刻が過ぎてしまった事など。