和の言葉を題材にして50のお題





春告げ鳥



その鳴き声を聞くと漢詩の一つでも作りたくなる。
時々寝ぼけたように途中で止めてしまったりもする可愛らしいその声。
「はは、春眠暁を覚えずってな感じだなぁ」
慶次も同じ事を思ったのか、鶯を指差して起きてねぇな、頭と言った。
「仕方なかろう?この陽気…何時までも寝たい気持ちも分からんではない」
するとそなたは、珍しいな。なんて目線を此方に向ける。
「寝坊なんて、許さない御仁が…まぁ…」
まるで、型にはまりきった面白くない人間だと言われている気がする。
「昼寝も、そりゃ良いと思うぞ。私は忙しくて出来ないだけだ。」
へぇ、昼寝ねぇ。と慶次は含み笑った。
それがなんだか妙に癪に障って、兼続は軒先に座っていた体を其の侭に後ろに寝そべる。
「ほら、有言実行だ。うん、なかなかに良いものだ、昼寝とは」
途端、慶次は失礼なことに噴出して、大笑いした。
「あんた…ここまで、するかぃ、ははっ!」
何で笑われるのか、何で気恥ずかしいのか。
よく分からないのが、余計に居た堪れなさに拍車をかける。
飛び起きた兼続は、笑うな。と慶次に詰め寄った。
「そんなあんたに、俺は惚れたんだけどなぁ」
腹を抱えながら涙目の慶次が、なんともいえない笑顔で私を見詰め返した。
当然対応に困る兼続。
「なっ…!…むぅ…」
ほーほけきょ。ほーほけっ。
また鶯が眠気眼に鳴いたのか、尻切れ蜻蛉の間抜けな鳴き声。
「さぁて、確か兼続は昼寝も好きだったね。」
笑い終えた慶次が、首を傾げて私の肩に手を置いた。
「?…あぁ…」
私が返事をし終えたのを確認して、慶次は徐に前のめりになった。
いきなり掛かってきた体重を押し返しきれなくて、兼続は慶次にいとも簡単に押し倒される。
「…!?…ぉぃ、まさ」
「では、昼寝を始めようか?」
それはある春、昼下がりの出来事。