和の言葉を題材にして50のお題





名残の雪



緩々と春の足音。
幾重にも降り敷いた雪が硬さを増して。
踏みしめたなら、濁った音を立てて窪む。
「兼続?」
後ろから慶次の声がした。
「…何だ?所用か?」
振り返ると同時に、私の頬に冷たい大きな手の甲が触れる。
「あんた、寒さに頬が染まってるぜ?」
何度か頬を擦られ、面映ゆく思わず俯く。
「雪が、白いせいであろう?」
見上げて笑えば、慶次もまたくすりと笑う。
いいや、違うさ。と言いながら。
「では、何故?」
気の利いた文句でなければ、雪玉でも食らわせてやろうか。
そう思いしゃがんで硬い雪を丸めだした私に、慶次やれやれと苦笑う。
「言うと、兼続はきっと…」
などと言いかけて止めてしまう。
さては、適当なことを言ったのだな?なんて言ったら。
慶次は突然しゃがんで私を組み敷いた。
ぎゅっと、雪が押し潰される音と同時に。
視界は慶次だけになる。
「こ、こら…っ」
唯でさえ、図体の大きい慶次に圧し掛かられ。
硬い雪に埋もれて。
身動きひとつとれやしない。
「俺が居るから雪が朱に染まるんだろう?六花の君…」
ぼすっ。
意識しないうちに、私は手に持っていた雪玉を慶次の顔に食らわせていた。
「ぅ、う自惚れも大概に致せっ…」
すると。
「見せてやりたいねぇ、今のあんたの赤ら顔」
懲りるどころか、慶次は口角を上げて面妖な笑み。
「…!」
「だから、言わないほうが良いって言ったのに…」
なんだか、嵌められたようで悔しい。
「…言わないほうが良いなんて言わなかったぞ…」
苦し紛れの一言に、慶次はまた微笑みながら私の頬を撫でた。
「…見てみな」
慶次が急に体を起こしたので、私の視界が開ける。
「ぁ」
「あんたの気が振れたから、名残雪が降り始めたねぇ」