前夜祭





前夜祭



上手く説明できない、だが一つだけ言えることがある。
男が好きな訳ではなくて、好きになってしまったのが男だったという訳。
けれども、世間はそんな俺達に優しくなんかない。
「…慶次。お前はどうして…人の都合を聞かないんだ。」
目の前の金髪の大男は、クリスマスカードを持ったまま、頬を掻いた。
「サンタって奴は、懐と相談してプレゼントを決めちまうから。かなぁ…」
大雑把でいい加減なこの男を、どうして好きになってしまったのか。
俺の悲劇はそんなところから始まっているのかもしれない。
「…で、その、やけにお前に似ているサンタって奴が、俺達を秘境に招待してくれるのか。」
「…そういうこと。」
兼続は大きな溜息を一つ落として、カレンダーを見た。
イブの前日、特にバイトなんかも入れてない。
「…たまたま空いていたから、良かったものの…」
今度から、何か考えてるなら言ってくれ。
そう言い掛けた出端を挫かれる。
「いいや、あんたなら、空けるさ。俺の為に。」
違うか?
お前はそう囁き、俺を抱き締める。
…ああ、違わないさ。
違わないから悔しいんだ、お前は俺の為に予定をずらす事などしない。
「すっげぇ山奥らしい、露天風呂があんだけど帰りに湯冷めするぐらい遠いんだってよ。」
慶次が指を絡めてくる。
「旅館を切り盛りしてるのも爺さん婆さんで、従業員なんて居なくてよ…」
「…それで?…」
「だが、会席料理は本当に旨いんだって!雪景色も最高に綺麗らしいぜ。」
「…ほ…う…」
「で、究極。俺等が泊る時には俺等しか予約が無いんだとよ。」
兼続は慶次を見上げ、頭を横に振る。
「俺は行かない!」
慶次は離れようとする兼続を指の束縛で引き止める。
「温泉に行くだけなら良い!だが泊るなら行かない!……惨めなのは…嫌なんだよ…」
例えば、手を繋ぐその一つでさえ部屋以外でしたことは無い。
外を歩くのにも、気を抜けば友達の距離感を喪失してしまいそうで、怖くて出来ない。
なのに、目の前でさも当然に男女が寄り添う。女同士でも手を繋いだりもしている。
殊更、何かイベントがあるときは、其れが公然の理のように目の前に広がる。
だけど俺達がしてしまうと、奇異の目で見られる、一瞬で世界が冷笑する。
何も悪いことなんてしてないはずなのに。
俺が好きだと言ったばかりに、お前までそんな目で見られるんだ。
「…駆け込み宿で一人、来ない恋人を待つなんて、それなんて演歌だよ。」
「だが、俺達だけなんだろ!?宿の人たちに否が応でもばれるだろ!?」
慶次は涙目の兼続に対して、柔らかく笑った。
「実は貸切にしたんだよ。それに大丈夫だ、そういう老舗は弁えてる。」
そして今度は、後ろから抱きついて言った。
温泉卵食いてぇなぁ。久し振りに卓球も良いねぇ、ビリヤードなんてのもあるかもしれない。
部屋では炬燵で蜜柑なんか半分にしてよ、牛乳瓶の紙の蓋を開けて腰に手を当てて飲んでみたりよ。
古臭いマッサージチェアに座って、動かなくて笑ったりよ。
アンテナ立ってるようなテレビに金入れて、どうでもいい番組をさ、見るんだよ。
「…楽しいか…?」
「あんたが居るなら、何でも良いんだがね。」
兼続が振り返って、慶次に抱きついた。
抱き留めた慶次は頭を撫でながら続ける。
「そんでさ、浴衣姿でくだらねぇキーホルダーなんかを売店に、手ぇ繋いで買いに行こうぜ」
上手く言えない。だが。
好きになってしまったこの男は。
「…お前に良く似たサンタは、何でそんなに…優しいんだ…」
「……きっと、あんたに恋してるからだよ…」
強引で俺の思いなんて全然聞く気が無いくせに。
どうして、こんなに欲しい言葉をくれるのだろう。