夜話
「…殿、好い加減俺に勝とうとするのを辞めませんか?」
そんなことが出来るわけ無いだろうが。
三成は目の前で苦く笑う左近を憎らしそうに睨んだ。
先手を読んだらその先手、更に先手、先手先手先手…
読んで読んで読みまくっているのに。
どうして負けてしまうのか。
黒石を抓みつつ、碁盤を眺めるが、苛立ちが先立って状況が把握できていない。
「…殿、落ち着き成されませ。功を急いては…」
「お前の助言が無くても上手くやる!口出しするな!!」
左近ははぁ、と溜息を一つ。
そして透かしてある障子の外を眺めて下限の月を見つける。
俺と対局しているのに、その余裕がまた腹立たしい。
「…地に拘ってばかりでは、活路は出ませぬぞ」
いちいち、諭すような発言が拍車をかける。
「心を読まねば、幾ら有利でも負けてしまいます」
左近はそういうと、己の手に数個の白石を持って碁盤の上に…
「や、止めろ左近、許さぬっ………!」
刹那幾つかの白石が碁盤の上に降った。
「…左近、許さぬぞっ…!、投了などと、俺に勝っていたのに勝ち逃げなどっ…!」
慌てて地を整えだす俺に、左近は呟いた。
「…殿、久し振りの二人きりで睨まれっ放しなんて、堪えて仕方ないんですよ」
左近の腕が碁盤の上の碁石たちを跳ね除けた。
「あなたは俺に惚れられた時点で勝ってるんだ、碁ぐらい勝たせてくれても良いでしょう?」
終