しずかでやわらかい和のお題20





夜話



茶を振舞うのにだって、最高の持成しをするもんだ。
だったら、惚れ抜いた男を招くのにそれ以上をしないわけが無い。
違うかね?と尋ねたら胸の中で、水風呂に入れるのか?と笑われた。
そうじゃない、そうじゃないって。
例えば気付かないか…?
寺のような、公家の邸宅のような香りがするだろうがよ。
あぁ、それからこの酒だって一貫や二貫で買える様な代物じゃないんだ。
あんたをこの庵に迎えるときには、いつだって一張羅だし。
花だって抜かりない、掃除だって…
「知ってるさ…」
座ったままに胸へ誘った兼続が、着物の合わせのあたりに頬を寄せた。
「この肌触りは絹だ…、着物からも髪からも香る気高い香木も…」
言葉は途中で切れて、二人の時間が彷徨う。
所在無いと言うよりかは、無意識に。
無言で抱き締めると衣擦れの音。
小鳥だなんて、形容したらなきっとあんたは、笑うんだろうが。
良い酒に酔ったあんたは、白い頬を仄かに染めて。
甘そうな唇から、熱い息を吐いている。
「…酒も…上等だったろ?」
「もう…いい……」
兼続の手から零れる、朱色の盃が、畳に小さく音を立てる。
慶次は、その下顎に手をかけて唇を塞いだ。