しずかでやわらかい和のお題20





たわや腕の



息も出来ないほどに、強く抱き締められる腕が欲しい。
包み込めるぐらいの背丈も欲しい。
いや、親が違うのだ。無い物強請りは愚の骨頂。
だが…一日だけゆるされるなら、いつも包んでくれるそなたを包んでやりたい。
私が感じるこの安らぎを、そなたに味わわせてやれたなら。
「…朝か、眠いねぇ…」
冬は日の出ぬ日も多いが、其れにしたって早すぎる朝である。
所謂、未だ夜が似つかわしい頃合。
「…起こした…か?」
布団の隙間に入り込む空気が凍て付いていて、掛け布団を深くしながら言った。
慶次は私より遥かに逞しく硬い手で、私の鼻を抓んだ。
「…寂しいからって、一人で泣きなさんな。」
「な。泣いてなど…」
抓んだ鼻を開放しろと、手を押し遣ると慶次はまるで当然のように空気の隙間を埋めた。
「…布団の中だってのに、あんたは冷たいねぇ…」
「慶次が温過ぎるのだ、慶次はいつでも熱いほどだな…」
そしてそのまま、体の隙間に腕を滑り込ませそなたは私を抱き締めるんだ。
二人で居れば、丁度良くなるなどと訳の分からぬことを言って。
その一言に私は喜んでしまうと知っていて、そなたは毎度そう囁くのだ。
なのに私は、上手い文句を言えた試しがなくて。
もどかしさに、兼続は慶次の背に腕を回した。
艶っぽいとかそんな甘美な響きで片付けるような代物ではない。
無理矢理に引き寄せるように、思い切り腕に余る慶次を抱き締める。
「………………」
慶次は困ったように黙ってしまった。
持て余させてしまったのかと、やはり上手くはいかないと小さく胸が疼いた。
「……幸せってのに抱き締められたら、」
兼続は脈絡のない呟きに徐に顔を上げた。
「言の葉なんて、訳無いねぇ…」