たわや腕の
息も出来ないほどに、強く抱き締められる腕が欲しい。
包み込めるぐらいの背丈も欲しい。
いや、親が違うのだ。無い物強請りは愚の骨頂。
だが…一日だけゆるされるなら、いつも包んでくれるそなたを包んでやりたい。
私が感じるこの安らぎを、そなたに味わわせてやれたなら。
「…朝か、眠いねぇ…」
冬は日の出ぬ日も多いが、其れにしたって早すぎる朝である。
所謂、未だ夜が似つかわしい頃合。
「…起こした…か?」
布団の隙間に入り込む空気が凍て付いていて、掛け布団を深くしながら言った。
慶次は私より遥かに逞しく硬い手で、私の鼻を抓んだ。
「…寂しいからって、一人で泣きなさんな。」
「な。泣いてなど…」
抓んだ鼻を開放しろと、手を押し遣ると慶次はまるで当然のように空気の隙間を埋めた。
「…布団の中だってのに、あんたは冷たいねぇ…」
「慶次が温過ぎるのだ、慶次はいつでも熱いほどだな…」
そしてそのまま、体の隙間に腕を滑り込ませそなたは私を抱き締めるんだ。
二人で居れば、丁度良くなるなどと訳の分からぬことを言って。
その一言に私は喜んでしまうと知っていて、そなたは毎度そう囁くのだ。
なのに私は、上手い文句を言えた試しがなくて。
もどかしさに、兼続は慶次の背に腕を回した。
艶っぽいとかそんな甘美な響きで片付けるような代物ではない。
無理矢理に引き寄せるように、思い切り腕に余る慶次を抱き締める。
「………………」
慶次は困ったように黙ってしまった。
持て余させてしまったのかと、やはり上手くはいかないと小さく胸が疼いた。
「……幸せってのに抱き締められたら、」
兼続は脈絡のない呟きに徐に顔を上げた。
「言の葉なんて、訳無いねぇ…」
終