しずかでやわらかい和のお題20





托生



あまり私に構ってくれるなと、苦く笑う顔までも愛しい。
何かと理由をつけて距離を取ろうとするあんたでさえこんなに堪らない。
解っている、誘うとかそんな色情めいた行動ではないことぐらいは。
しかし俺はこんなにも煽られてる。
強情とも言っても良いかもしれない。
領域を侵すなと逃げられれば侵したくなるのが、俺だ。
長年生きてきて、それを割りと許されてきたのも俺だ。
あんたは俺にいつか絆される。
何時の間にか身動きが取れなくなってる。
俺しか見れなくなってる。
「…どうして、逃げない…?」
だが、僅かに拍子がずれてしまうと間合いが取れなくなって。
俺はある晩、酔っても無いのにあんたに抱きついてしまった。
口上を並べようにも、素面だという時点で過ちなんだとは片付け難い。
だから弱ったと思いながらも口から出た言葉が、どうして逃げない?だった。
俺しか見れなくなるのは、経験上まだまだ先のはずだから。
下手をすれば、もっと距離を置かれて、有耶無耶とされてしまうかもしれない。
思いを隠すように、抱き締める力を強めた。
「……八方を塞いでおいて、逃げないのかなどとは…」
兼続の声が微かに震えていた。
「年甲斐の無い懸想など…笑い種にしかならぬと…抑えて居たのに…」
そういいながら、乙女の様な初心な仕草に、生唾を飲んでしまう。
「…托生っつったら、ちょっとは本意気に俺を見てくれるのかい…?」
「……睦むのも相手が…居るからな……」
鈍いと思っていたのに、思った以上に鈍かったのは俺なのかもしれない。