しずかでやわらかい和のお題20





そよ、ほろり



華の王の弁を一つ二つ、抓んでは千切ってしまいましょう。
一枚一枚蝉の羽化を手伝うが如く、散らしてやりましょう。
やがて貧相に成り行く美しき体を俺が抱いてあげましょう。
頼らずには、居ても立っても居られなくしてくれましょう。
「左近…」
起き抜けに呟く声音はまるで別人のように甘やか。
そのしなやかな腕が、すっと伸びた先には俺の着物。
俺ではなく俺の脱ぎ捨てた着物を手繰り寄せるとは。
少しばかり憎らしくもありこの上なく愛らしくも有る。
だから俺は、見て見ぬ振りをして縁側で煙草を呑む。
するとあなたは、少しばかり拗ねて。
子猫が爪を立てるように俺に向って、何処で居る。という。
ああ、またはじまった。
撫でてと言う代わりに爪で掻き毟るのだ。
「殿、朝ぼらけが美しいですよ」
其れしか知らないから。
「…どうでもいい」
左近はそっと障子を開け放ち、寝床に戻って拗ねて伏せた体に寄り添った。
「…ここからでも綺麗に見えますな…」
三成が外を見る仕草をして、また直ぐ伏せる。
「…閉めて来いっ…屑……」
そして光に晒してその頑なな心を溶かしてしまいましょう。