しずかでやわらかい和のお題20





そよ、ほろり



同化したいようでいて、拒み通している自分が居る。
ふと傍に居るのに忘れてしまうのは、仲が深まれば致し方ないと言うよりかは当然で。
息を吸う拍子でさえ、変わらなくなってきて。
好いたそなたは日に日に私に染まり、私もそなたにこうも見事に染められる。
なのに其れを拒むのは、よくせきの事ゆえに。
それは至上の幸福であるとともに、恋の終末を招くからだ。
私が主の話を絶えずするのも、そなたが時折白粉の香りを漂わせているのも。
ここに自分が居ると、ささやかと見せかけながら、押し付けたいからに他ならなくて。
藍墨茶の瞳が、虎の唇を這う。
虎はその視線に気付き、獰猛な大きな瞳で龍に愛でられた玉を見た。
「…今夜は先約があるんだ」
ばつが悪そうにもせず、慶次は視線をそらした。
兼続は正座していたのを、静かに足を滑らせて立膝にする。
「そう言うと、私がせがむとでも思うのか?」
立ち上がって身を翻す。
柱に手を掛けて、障子の骨に手を掛けた。
「帰すとでも思ってるのかよ。」
その強引な腕は、私を障子から引き離し、爪を立てるように身に食い込んだ。
なぁ、あと何度そうやって私を掻き口説くのだ?
俺を求めろと言いたげに、私を掻き抱くのだ?
「帰るとでも思っていたのか」
兼続は、そっと手を上げて顔の見えない慶次の顔に手を沿わせた。
そなたの声が、詰まったのが聞こえる。
…その隠してある爪をもっと立てて、私を水面に引き込んでくれ。
溺れたいと願いながら、必死に藻掻く故。
息をすることを忘れるぐらい。
溺れているくせにな。