しずかでやわらかい和のお題20





浸漬の木のさやさや



行く宛ても知らないこの身を、あんたは海の水母に喩えてくれたね。
なんだか妙にしっくりきて、こそばゆいような面映いような不可思議な気分がしたよ。
「触れてもいいかい?」
ほとんど抱き締める形をとってから了解を取るんだから、俺も大概捻くれてる。
「…ならぬ。と申せば、その腕は引っ込むのか?」
案の定、大童め。と口角を上げ微笑む顔は諦めている。
その困った顔さえ、独り占めにしたいとは。
我が儘の最たる物であろうか。
慶次はきゅっと後ろから兼続を抱き締め、頬に頬を寄せた。
「おいおぃ…そのように力を込めずとも、そなたの腕から逃げられるわけが無かろう」
兼続は手に持つ冊子をひらひらとはためかせ、読みたいんだが?と顔を傾げた。
「…そんなに釣れないんじゃぁ…波に攫われどこかに行っちまうかもよ?」
なんて言いながら慶次は内心無理なくせにと己を嘲る。
そう、もう無理なんだ。
あんたという、海に出会ってしまったから。
「ははは、弱ったな。私は景勝様が居られるのでここより離れる訳にはいかんからな…」
兼続は頬を滑らせ、慶次の顔を見やった。
「気が向けば戻ってくると良い…わたしはここでゆらゆら揺れる海藻だから…漂う術を知らぬ」
慶次は黙って頬に唇を寄せる。
「だから俺は、あんたにしがみ付いたんじゃないか…」
精一杯、力一杯、能う限りに。
兼続は面白い事を言うな。と小さく笑う。
「…何時か連れ去れるようにか?」
「…いいや、流されるのに厭きたから、あんたと一緒に逆らってみようかと思ってね」