しずかでやわらかい和のお題20





小夜



抱いてくれた刹那を永遠としてくれるなら。
現が昔と名を変える前に、俺の息の根を止めてくれるというならば。
この体なんぞ幾らでもくれてやる。
そう言って重ねた肌の温もりは、どうして焼き切れるほどに熱くて。
「…殿」
頬から下顎にかけて手を添わせて左近は名を呼んだ。
夜の事情も時が過ぎれば帳が有耶無耶としてくれて、なんとなくの物憂い雰囲気だけが微かに残っていた。
首筋に張り付いていた髪ももうすっかり水気をなくし、左近の指に絡みつく。
三成は微動だにせず、静かな寝息を立てていた。
「殺せませぬ…」
この亜麻色の瞳が開いた刹那、また俺は咎められるのだ。
どうして俺は生きているのだと。
何故、殺してくれないのかと。
「殺し方が分かりませぬ…」
左近は疲れ切った三成の体を抱き寄せ、額に口付ける。
事切れたかのごとく眠る三成に左近は何度心を揉んだだろうか。
最初は睦言だと思った。
よくある、唯の…快楽が続けば良いとの、そんな類の願いだと思っていた。
だが、どれだけ愉悦を共にしても、あなたは悲しい事しか言わなくて。
それはあるいは俺だから抱く不安なのかもしれないと、気付けたのは目が覚めたら何時も俺に縋りつくあなたを見たから。
なら俺は、本当に絶頂の間際にあなたの命を絶たねば。
あなたを救えないのかもしれない。
「あなたを残して俺は何処に行けますか…」
耳元で囁く。聞こえていないのは重々承知の上。
「どうか…」
これ以上悲しい考えを廻らせないで欲しい。
出会わなかったら、この様な苦しい恋をせずとも良かったのにと、その口が発しないように。
お呪いの如く何度も頭を撫でて、名を呼んで、好きだと言う。
明日の朝もまた同じようにするのだが、それはあなたの心を総て埋めることは出来ない。
だから、せめて夢の中では永遠を感じて欲しい。
この腕の中で見る夢が、あなたを充たすことが出来たなら。
三成…と左近が呟いた言の葉は、小夜にいとも簡単に毀れた。