しずかでやわらかい和のお題20





およずれごと



「縁起が悪いといわれながら、どうしてこうも壮観で…」
程無く続く椿の並木道が空を覆う山道の途中。
左近は溜息をついて見上げた。
梅は咲いた、桜はまだかと待ちに待ってやっと桜を見に来た。
秘境に思いもがけぬ枝垂桜があるのだと、左近が提案して俺はそれに乗った。
が、思いも掛けぬ所で憎い足止めを食らったのだ。
それがこの椿。
深紅が深緑に散りばめられ、山椒を効かす様に黄色がそれらを引き立てて。
思えば初めて、真面目に椿と言う花を見た気がした。
「…この季節だったのだな」
俺が呟いた刹那。
椿がぽとりと毀れた。
三成は事切れた椿のその様に、俯き視線を外した。
成程、忌み嫌うのも分かる気がする。
いい気がしない。
「…はは、潔いじゃないですか」
幾許かは人が通るのか。
将又、獣達の行く道なのか。
細い道は踏み躙られた紅と黄が朽ち続いている。
「俺たちみたいですね…」
左近は三成の手を取って、行きましょうと微笑む。
「ここを抜ければ、お目当ての桜です」
三成はただ強く握り返して、横顔を見上げた。
その暫時、また椿が視界で毀れる。
ふと左近は俺と視線を交える。
薄い微笑が、言いようもなく果敢無く思えた。
「…如何なされた?泣いてしまわれそうだ…」
泣いちゃ駄目ですよ?と語った瞳。
でも頬に添わせてくれた掌は、思った以上に冷たかった。
「お前が居る…泣く必要が有るか?…戯け……」
やっと出た言葉は己が思うより弱々しくて。
己の知り得ない、心底ではあるいは堪えているのかもしれない。
行きましょう。
そう言って肩を抱いた左近は、無理に足を進ませた。
上山から吹いた風は梢を鳴らし下山に行く序に、椿を降らせる。
颪はぽたぽたと耳障りな位に花を落す。
左近はまるで雪でも避けるように、足早に俺を急かせた。