しずかでやわらかい和のお題20





およずれごと



「そなたは藤ではない!断じて違う、有り得ぬ!」
怒りの捌け口がどうして俺に向くのかと。
悩みだしてもうどれほど経つのであろうか。
なぜならそれは、当の本人への悪口への苦言なのだから。
「到底理解できぬ、景勝様とて言い過ぎではなかろうかっ!」
それは山藤が色濃く咲き乱れ、稀に見ぬ美しさについつい兼続を屋敷から連れ出した次の日のこと。
「これ程の漢が他に居るまいに!何故っ…」
兼続はそれはもう、普段の姿からは想像もつかないくらいに酩酊していた。
主従揃って笊だとは慶次が一番とは言えないかもしれないが、良く知っていた。
しかも主従そろって、修行の一環の様に酒を嗜む。
二人が揃って酒を酌み交わしていた時に居合わせた俺の、なんとも言えない居た堪れなさったら。
なんて浸っている場合ではない。
「…落ち着きなよ、兼続…」
「これが落ち着いてなど居られようか!いや居られぬ!」
兼続は目を細め、苦渋に満ちた顔を作る。
「兼続…」
居られぬのだと俯いた兼続は思いのほか弱っていた。
「知った風な口をききおってっ…」
人肌とはどうして、人を落ち着かせる効果があるようで。
何度も頬を撫でて頭を撫でてやった。
「…そなたは、藤ではないっ…」
途端、兼続の中で張り詰めていたものが溢れ出す。
胸に飛び込むように身を傾げ、抱き締めて欲しいといった。
慶次は兼続を膝の上に抱き上げ出来るだけ総てを包んでやった。
「いつか絞め殺されるなどと…お前が壊されるなどと…余計な世話だっ…」
抱き締めながら、慶次はごめんなと囁く。
兼続は肩に頭を擦り付ける様に、何度も違うと頭を振った。
絞め殺されるとは…強ち外れても居ないと慶次は思った。
日に日に、限度を知らないこの思いはどれだけ注いでも募るばかり。
昨日少しだけ気まずそうにしていた兼続を連れ出したのは、俺。
「…私は後悔などしておらぬよ…」
それは、昨日の話だろうか。
俺を選んだ話だろうか…
酒の回った体で精一杯抱き締められた。
苦しそうに息をしながら、手繰り寄せるように何度も何度も後ろ身ごろを掴んで。
頑ななまでのその仕草。
まだ足りないのかい?と息を止めてしまいそうな程に抱く腕を締めた。
刹那に零れる、それは余りに切なすぎる、甘い響き。
「…私は、絆されると知ってそなたに懸想したのだ…っ」