こもりづ
気付かない振りをしていた。
何故かと言われると答えようが無い。
ただ…こんなに強情な男の懸想の相手が、まさか俺とは。
それに感づいたのは、思うにもう昔の話。
しかし幾ら俺の直感が優れているといってもだ。
この類は主従であれば余計に、気を遣うもので。
万が一であろうと、其れを見極めんが為に様子を見ていた。
それ故に、貴方の思いに気付かずに居る事に決め込んだのだ。
だがそれも、段々と居た堪れなくなっていった。
「左近、おい左近!」
「はいはいはいはいはいはい」
「返事は一回だ、戯け。」
何をするでもないのに、俺の屋敷に押しかけ、俺の名を呼び。
美味い食い物を持ってきたんだと、風呂敷を開け。
お前にくれてやると言うのだ。
こう毎度毎度されては、嘘も繕い続けられない。
というか、これまでされて気付いてやれないのは。
女好きと浮名を流されている俺にとっては、痛手以外のなんでもない。
左近は、主に畏まって向き直した。
「…なんとかの一つ覚えってご存知ですか?」
「馬鹿だと言いたいのか?」
三成は胡坐を組んで肘を突いた。
「…では」
「阿呆でも構わん、左近返事を聞かせろ」
目の前の男を見てそれから直ぐ目線を逸らす。
…男前過ぎるんだよな…
「…左近で宜しければ」
途端立ち上がって歩み寄る三成。
「誠か!?誠なんだな、今更嘘などと言ったら介錯してやる腹を切れ!」
などと目の前に座って肩を掴んで捲くし立てた。
近づけば気付いたが、整った顔の瞳がうっすらと泪に濡れていた。
この一瞬で左近が三成に心を奪われたのは言うまでもない話。
終