しずかでやわらかい和のお題20





こもりづ



特に上等でもない普通の酒を呷っていた。
念者と美味い物を食うのは格別では有るが、そうでもないものでも。
やはり一入美味く感じるのだ。
懸想とは、ふむ…
もしやとんでもない力を秘めておるのやもしれぬ。
「兼続?」
「何用だ、私は今真剣に物事を思案している最中だぞ」
「…俺と飲んでる最中でもあるんだけどねぇ」
慶次はやれやれ眉を顰めて、兼続が自酌した徳利を奪った。
「おっおい…」
入れろと言ってくれれば、入れなんだことは無い。
注いでくれとどうして一言言わない。
「…さって、これで用意してたのも仕舞いだ、存分に思案しなよ」
一気に徳利を傾けて飲み干した慶次は、そう言って立ち上がる。
いやまて、次を持てと言えば小姓が持ってくるだろう。
何故そんなに急ぐのだ。
頭ではそう思うのに、酒のせいか慶次の言葉のせいか。
口が開かない。
「お休み」
慶次は良い残して、隣の部屋に姿を消した。
怒らせたのかもしれない、そう思うのに、口から出るのは。
「酒を持ってきてく…」
そこまで言って、やっと気付いた。そうここは慶次の庵だった。
私の小姓など連れてきていない。
そなたと私以外誰も居ないんだ。
「慶次…」
兼続は盃を落として、隣の部屋に向った。
虫も鳴かない三更に相手にしてくれない切なさは。
私が思うより辛いものなのかもしれない。
「慶、次」
細い月を眺めながら慶次は…なんだい?と言った。
何も言わずに抱きついて、兼続は指を絡めた。
思った以上に冷たかった指が、酒も醒めてしまっていたことを気付かせた。