しずかでやわらかい和のお題20





旭光の窓



三成は己に掛けられた左近の羽織を掴み、深く溜息を吐いた。
頬に手を伸ばすと畳の目が肌にくっきりとついているのだろう。
細かな凹凸を感じた。
それから、寝起きの気だるさと霞む視界が嫌悪に拍車をかけた。
「…俺はどうしてこんなにだらしがない…」
知音からの尺牘は丁寧に折りたたまれ、先程まで読んでいた筈の本には、栞。
これは間違いなく左近の仕業。
おまけに蚊取り線香まで焚き付けて…
至れり尽くせりの言葉の通り。
三成は苦虫を噛み潰した顔で、頭を掻いた。
あいつはそうだ、いつでも。
奥ゆかしい女房のような事をする。
その癖、俺が気恥ずかしいのを堪えて礼を言おうものなら。
『勘違いも程ほどになされませ、左近の着の身引っぺがしておいて…』
などと冗談交じりに一掃。
それ以来、礼を言おうにもあいつの軽口が容易に想像できて、礼を言えない状態が続いている。
「…未明か…」
三成は髪を掻きあげながらそっと障子を引いた。
そういえば、あいつはこんな風に舟を漕いでしまった俺を置き去りにして帰った後日。
必ず早朝に俺を窺いにやってくるな…
「………まるで旭暉だな…」
花街の灯火が似合いそうな左近の顔を思い浮かべて、三成は苦笑した。