しずかでやわらかい和のお題20





君がまにまに



其れが例えば、有り触れた理由でも良い。
こじ付けでも構いはしない。
「…言いたくはないのだが…そなたのせいで気が…」
兼続はそう言って紙面を眺めていた視線を慶次に向ける。
その目線を受け止めて、慶次は片眉を下げてみせる。
「…?」
こちとら、さっきから気が…と後を濁して言うもんだから。
その度にしていた事を止めていく。触るな、寄るな、挙句は動くな。ときたもんだ。
だから頭の中で郷里なんぞ追憶してたら、今度はそれにもそんなことを言い出すのだこの男は。
仕舞いに息をするなとまで言われたらどうしようかと思う。
「…あ、あの…」
書き損じだろうか。丸められた紙が兼続の掌で弄ばれている。
胸騒ぎを音にしたような紙の擦れが耳に届く。
「…お暇しようか??」
兼続は騒がしい男だが、場所は弁える。
宴では冴える冗談を言い、評定では辛辣に物を言う。
然るに、俺のせいで気が…ってのは嘘ではない、筈だ。
まぁ俺はもともと約束もしてないのに来た、予期せぬ来訪者。
しかも仲が良い分、帰れといえないもどかしさもあるのだろう。
「…そうしてくれると…」
最後まで言うなと、慶次は手で言葉を制して立ち上がった。
「御免、また気が向いた…ら…?」
寄らせてもらいたいね。なんて笑おうと作りかけた笑顔が作れない。
目の前のあんたは、上目遣いで奥歯を噛み締めて、握りこんだ拳を震わせていた。
「…私の漫ろとなったこの思いを、どう、したら…いい…」
よもやその口から俺の考えとは逆の言葉が飛び出すとは思うまい。
「この、胸の高鳴り…が…」
慶次は座りなおして兼続を抱きとめ言葉を殺した。
実まで言わせるのも、粋ではない。
ただ俺は、あんたの意の儘に。