帰依
周りとの調和が歪になっているのは、俺にも分っていた。
だが、諂って取り入って仲良く並んで手を繋いでいては、いつか未来に崩れてしまう。
築き上げてきたもの、総てが。
貴方様の象った太平の世が。
「さりとて、素行の悪い貴様らが悪いのだろうが…伸し上ることしか脳に無いのか」
汚れ役だと言われようとも。
媚びていると言われても構わない。
けれど、時折襲うどうしようもない孤独感は、星ひとつ無い暗闇に落とされたような。
気味の悪いものだった。
「とーの。」
部屋の障子を引きざま、左近が俺の額に手の甲を当てた。
入ろうとして前傾になっている姿勢が止められる形。
三成は左近の腕を払い除け、一歩踏み出し睨み上げる。
「おのれ、一体どの様な身分か解せて居らぬようだな」
「評定などあられる頃合、殿の顔色は頗る陰っております故。」
なんだと。
顔を青白くしながら、三成が詰め寄る。
「…今の顔もか。」
「今のお顔は。」
少なくとも、評定の間を出るときは大丈夫。なんて言いながら部屋の央に寄る。
「殿、総てを信じろとも、従えろとも、まして疑えとも申しますまい。」
二歩進んだ足が、目の前で止まった男のせいで不本意に止まる。
「俺は殿に仕えたその日に、拠り所とすると決めたのです。」
振り返った顔が、諭すように優しい。
「神や仏の如く敬う方だけを念頭にお入れになれば、きっともっと殿は楽になれまする。」
そんな殿に、俺は盲目に傅くのですから。
そう言われ暫時黙ったあと三成は、無礼な。と袷を正しながら睨めあげる。
「誰に向って物を言っている、俺は過ぎたる物を二つも持ち合わせる、武士だぞ。」
左近はその言葉に笑みを零す。
終