しずかでやわらかい和のお題20





帰依



周りとの調和が歪になっているのは、俺にも分っていた。
だが、諂って取り入って仲良く並んで手を繋いでいては、いつか未来に崩れてしまう。
築き上げてきたもの、総てが。
貴方様の象った太平の世が。
「さりとて、素行の悪い貴様らが悪いのだろうが…伸し上ることしか脳に無いのか」
汚れ役だと言われようとも。
媚びていると言われても構わない。
けれど、時折襲うどうしようもない孤独感は、星ひとつ無い暗闇に落とされたような。
気味の悪いものだった。
「とーの。」
部屋の障子を引きざま、左近が俺の額に手の甲を当てた。
入ろうとして前傾になっている姿勢が止められる形。
三成は左近の腕を払い除け、一歩踏み出し睨み上げる。
「おのれ、一体どの様な身分か解せて居らぬようだな」
「評定などあられる頃合、殿の顔色は頗る陰っております故。」
なんだと。
顔を青白くしながら、三成が詰め寄る。
「…今の顔もか。」
「今のお顔は。」
少なくとも、評定の間を出るときは大丈夫。なんて言いながら部屋の央に寄る。
「殿、総てを信じろとも、従えろとも、まして疑えとも申しますまい。」
二歩進んだ足が、目の前で止まった男のせいで不本意に止まる。
「俺は殿に仕えたその日に、拠り所とすると決めたのです。」
振り返った顔が、諭すように優しい。
「神や仏の如く敬う方だけを念頭にお入れになれば、きっともっと殿は楽になれまする。」
そんな殿に、俺は盲目に傅くのですから。
そう言われ暫時黙ったあと三成は、無礼な。と袷を正しながら睨めあげる。
「誰に向って物を言っている、俺は過ぎたる物を二つも持ち合わせる、武士だぞ。」
左近はその言葉に笑みを零す。