しずかでやわらかい和のお題20





帰依



「…俺に縋りなよ、極楽に連れてってやるぜ?」
剃髪した頭を撫でられて、慶次はからかい気味に言った。
あれだけ量と長さがあった髪を、こうまで無くすると、なんと頭の軽いこと。
髪床を必要としなくなった分朝は遅くまで寝ていられるんだけどね。
なんて、あんたの前で言ったら。
「そなたな、髪なぞ直ぐ伸びるのだぞ、手入れせねばみっともない事この上ない。」
そんなこというもんだから。
「…俺には専属の毛繕い師が居るじゃないか。」
と言ってやったら。
まぁ、見た目どおりと言うか、律儀に毎日、俺の頭を剃刀で整えてくれる。
こんなに心地良いものなら、どうしてもっと早く髪をおろさなかったのかと悔やまれるほど。
「…慶次、戯れていると、脳天から血が噴出しても知らんぞ。」
「いいさ、あんたにならこの命ぐらいくれてやるよ…」
小さな盥に水を張ったもので剃刀と濯ぐ仕草を横目で見ながら、慶次は呟く。
白魚の指が、鈍い銀色の刃筋を撫でていたのがぴたりと止まる。
「心配するでない、殺しはしない。」
慶次はまた視線を庭に移して、軽く微笑む。
剃刀が、米神に添えられる。
「…仏が迎えに来るまで、そなたの剃刀は私の役目だ……」
嗚呼。
「死ぬまで頼むよ、兼続。」
嬉しくて、言葉が見つからない。