風鐸
見えないものを見えるようにしたといえば、殊更尊く思えて仕方が無い。
本当に風流だと思う、風を音で知らしめるのだ。
鈴虫にもにた音が桟から流れてきて、左近は薄く笑んだ。
筆が紙を滑るのでさえ、この音を濁してしまいそうで手を休める。
ただ、涼しげな音が俺を洗ってくれ…
「…余程夜なべがしたくて堪らない様だな」
ていたのに、まぁ。
「休憩していたのですよ、根を詰めすぎると効率が悪くなる故」
主は、どうだかなと言いながら湯飲みを乱雑に机に置いた。
これは勿体無い、是非いただきます。そう言って左近はそれに口をつける。
三成もまた、近い場所に座って白湯を飲む。
また訪れた静寂に、ふと風鐸が鳴った。
三成は、目を細め独り言のように喋る。
「…人はどうして、言の葉を産んだと思う?」
夜の冷たい微風が左近の頬を撫で過ぎる。
「……俺は思いを伝えるためだと思うのだ」
当たり前といえば、当たり前すぎて左近は相槌を打った。
「…風が吹くから鈴は鳴る…、この世に片方しかないのならそれは両方意味を成さないことも有る」
えらく主にしては典雅な事を言う。
左近は物珍しそうに三成を見た。
「つまりは、俺とお前だ!」
拳が左近の肩に受け止めるように当たって。
その拳の元を辿れば驚くほどに真剣な三成の容貌。
「…さて、俺は貴方のところ以外では花開けないのか、花開かないのか…」
左近は笑顔で、己の肩の主の拳を、自分の掌で受け止める形をとる。
証明してやろうではないか。
終