しずかでやわらかい和のお題20





風鐸



無くても気付かない、そういわれてしまえば仕舞いだ。
だが無ければ物足りない、なら…仕方が無いで片付けようと思う。
天より送られる白き冷たさが、ふわりふわりと舞い過ぎる。
板張りの廊下は、想像以上に凍て付いている。
今までこの国で生きてきて、無意識にでも覚えているはずなのに。
廊下を踏んだ足がふと己の瞑想を醒まさせる。
「………よもすがら…物思う、ころは…、…明けやらぬ……」
不意に口をついた歌に、兼続は嗚呼…と口を押さえた。
馬鹿な事を口走るものだ。
廊下の柱に凭れ掛かり峰の連なる黒一色の景色を見遣る。
どうしたことであろう。
心を根こそぎ攫われたような虚脱感。
だが、それを埋める術をしらない。
そなたという男を相手にした時点で、私は負けていたのだ。
この事実だけが頭の内で転がっている。
「…あまりに連れぬと、風鐸も朽ちて落つるものだぞ…」
私は、手前勝手な男だな。
靡きはしないと牽制しておきながら、こうも求めているのだ。
兼続は目を閉じて、浅く呼吸をし踵を返した。
また暫くは明るくない朝が続く。
知ってはいても覆らないのなら、嘆くのも詮無き事。
風にだけしか答えられないこの身ならば。
吹いてくれるのを待つしか無いのだから。
閉められた障子の向こう。
深々と降っていた雪が緩やかに風に流され始める。