しずかでやわらかい和のお題20





ほうよう



好いているものの前では精々格好良く魅せたいのが男というものだ。
それは俺が一番よく知ってる。
故に。それで失敗なんぞしてしまうと他人がどう思えど打ちひしがれてしまうのも。
痛いほど分っている。
その美しい顔を精一杯、涼しい顔のまま留めようとしている。
その泪ながらの努力は分ります。
けれどどつぼにはまる程に哀れげで…
「……おい、なんだその目は」
三成は盆を片手に左近を睨んだ。
片手の盆には転げた湯呑が二つと急須。
勿論中身は全部盆と床の上だ。
「…手拭です、まずは其れを左近に下さいませ」
左近は突っ立ったまま何をしたら分らず動けない三成に手拭を渡した。
昔を思い出して茶でもと考えたのだろうか?
…しかし茶番も何年もしてなかったらこんな初歩的な失敗を犯すらしい。
「…で、とりあえず此処ではあれですので、一端廊下に……」
左近はてきぱきと盆を片付け畳を拭きだした。
ここで小姓を呼ぶ手もあろうが、これ以上殿の誇りをどうこうしてはいけない。
よしんば俺が零したことにしてもだ、殿は動転しているのを体言してしまうからいけない。
「…んな」
左近は考えながら畳を拭いていたので、三成がなんと言ったのか聞き取れなかった。
「…はい?今なん…」
聞きなおして顔をあげれば。
「……聞いてなかったのか、このうすのろがぁっ!!!」
一泊置いた後、芳容が紅に染まって、まぁ何て美しい。
「片しておけっ、俺は寝るっ!!」
三成は手渡された手拭を投げ返して裸足で部屋を後にした。
はは、と左近は投げ返された手拭を拾った。