しずかでやわらかい和のお題20





ほうよう



ねぇ…と、そなたは其れだけを微かに言う。
そなたは夜になると言葉が減る。
どうしてだと聞けば、また頓狂な答えが返ってきて、なんだか気持ちが和らいだ。
『生きとし生けるもの形を潜めて隠れてるんだ、俺達だっていつまでも元気で居ちゃいけない…』
リリリ…と鈴を鳴らすような鳴き声が、慶次言葉の続きを消した。
そうだ、あんなことを言われたのはもう…
「…どうし…」
恐る恐る伸ばしてきたかのような腕が、私を捉えて肩にそなたの顔が乗ったのが分った。
時折そなたは、そうやって私を困らせるな。
どんなに理由を聞こうが、そなたは口を噤んでしまう。
そなたは私を体では抱き締めているのに、瞳は虚ろで何処を見てるか分らない。
「…」
そうして言霊さえ漂わなくなると、時が遅くなるような止まったような気さえする。
ただ、そなたの腕の中でいるだけなのに。
だが、慶次の腕の中でいるからこそ。
今そなたが、何を思って何を感じているのかが分らなくて怖くなる。
空気は無くてはならないものだという。
しかしそれは、死してなおこの世にあり続ける故にその有り難さは、私には終ぞ分らないだろう。
「…慶次…」
緩々と慶次の腕が私を抱き締める。
ジジ…と仄かな灯火に飛び込んだ虫が燃える音が響いた。
傍に居ないと生きた心地がしなくなったのは…
傍に居ても胸が潰れて息ができなくなったのは…
「…兼続…」
いつから、だろうか。
侘しさが私とそなたの間から溢れているようだ。
「…もっと強く抱き締めてくれないか…」
ぽとりと落とした言葉は、仄暗い床に転がった。