はごろも
「隠してしまいましょうかね」
朝日が障子を透けて、三成に降り注いだ。
朝が苦手な三成は漸く身を起した。
そんな念者に、長着を羽織らせながら左近が言った。
「…何を」
三成は座ったまま横に振り返り、掛けられた羽織を肩から滑らせた。
「…何って…」
左近は苦笑いしながら羽織を摘み上げる。
「着物をですよ」
まさかとは思うが、こいつは…
「天女の其れを言っているのではあるまいな」
「だって、羽衣を隠すと妻に出来るんですよ?しない男はいないでしょう」
この男は本当に調子者だ。
否、夢を見すぎなのだ。
「俺は男だ。しかも着物を隠すぐらいでは人の物になりはせぬ。」
「…そりゃ残念ですねぇ…」
左近は小さく笑って、三成の頬に触れる。
其の瞳が少し拗ねているように見えた。
…言い過ぎた、だろうか。
「………隠さずとも、物にできたお前は凄いな…」
「ぇ」
間髪入れず返された言葉に、視線を合わせると。
左近が耳を仄かに紅くして目を瞬かせていた。
そして頬を撫でていた手が、即座に額に宛てられ。
「…昨日が祟ったのか!?…熱は御座いませんか!!!?」
…貴様。
寝起きであるから、いつも言わぬ事を言ってやったのに。
それはないだろう。
「…最高に気分は悪い。」
終