しずかでやわらかい和のお題20





はごろも



「隠してしまいましょうかね」
朝日が障子を透けて、三成に降り注いだ。
朝が苦手な三成は漸く身を起した。
そんな念者に、長着を羽織らせながら左近が言った。
「…何を」
三成は座ったまま横に振り返り、掛けられた羽織を肩から滑らせた。
「…何って…」
左近は苦笑いしながら羽織を摘み上げる。
「着物をですよ」
まさかとは思うが、こいつは…
「天女の其れを言っているのではあるまいな」
「だって、羽衣を隠すと妻に出来るんですよ?しない男はいないでしょう」
この男は本当に調子者だ。
否、夢を見すぎなのだ。
「俺は男だ。しかも着物を隠すぐらいでは人の物になりはせぬ。」
「…そりゃ残念ですねぇ…」
左近は小さく笑って、三成の頬に触れる。
其の瞳が少し拗ねているように見えた。
…言い過ぎた、だろうか。
「………隠さずとも、物にできたお前は凄いな…」
「ぇ」
間髪入れず返された言葉に、視線を合わせると。
左近が耳を仄かに紅くして目を瞬かせていた。
そして頬を撫でていた手が、即座に額に宛てられ。
「…昨日が祟ったのか!?…熱は御座いませんか!!!?」
…貴様。
寝起きであるから、いつも言わぬ事を言ってやったのに。
それはないだろう。
「…最高に気分は悪い。」