しずかでやわらかい和のお題20





はごろも



我乍ら、相当惚れちまってんだと思う。
この緋の長襦袢は絶対にあの白皙の肌によく似合うと思うのだ。
その上に純白の長着をあわせりゃ、鬼にでも攫われるほどの佳人になるだろう。
「…気に入ってくれなきゃどうすんだってんだよ」
反物を仕立ててくれと頼んだら、俺の大きさに繕ってくれようとして焦って。
大きさを伝えると、まるで旦那が着る様で御座いますなとからかわれ。
実際着せようとしているのだから、なんとも言えず。
「…しかし、涎が出ちまいそうだ…」
この紅が肩から二の腕へと滑り落ちるのかと考えると。
背筋がぞくぞくする。
けれど、問題は本当に兼続がこれを着てくれるかどうかなのだ。
実際反物屋の店主も、兼続の寸法と分っていても、兼続が着るとは露ほども思ってない。
それほどに、兼続はこういう派手を好まない。
「…いざとなりゃぁ…」
「いざとなったら何なのだ」
「おお!?」
執務を終えたのだろうか、兼続が俺の側に寄ってきて言った。
覗き込む貌が、なんとも言えず俺好みである。
今更に男に生まれてきてくれて良かったとさえ思う。
女で他人の妻にでもなっていたなら、法度に触れてでも奪っていたかもしれない。
いや多分、奪っていた。
「…良からぬ事を考えていたのであろう?」
兼続の白く長い指が、俺の耳を抓んで引っ張る。
「痛ぇよ兼続」
言いながら、その指が夜には着物の袷を抓んでいる様を想像している。
いざとなったら。
無理矢理脱がして着せるだけだと。
目の前のこの美しい御仁はまだ知らない。