しずかでやわらかい和のお題20





兄人



俺の部屋で左近が寝ているだと!?
気に食わない事この上ない。
俺がお前の部屋で寝るのはあり得る事であろう。
しかしお前は臣下の身でありながらっ…
三成は横たわっている左近を睨み、意中でごちる。
いやまぁ…
こいつが最近俺の居ないところで、俺の身の振り方で苦労しているのは知っている。
だが、憎まれ役と言うものは大所帯になれば必要になるのだ。
それを俺が敢えて買っていると、知っているのは。
知っていて、そんな役回りの俺に仕えているのは、存外疲れるものなのだろう。
大層気持ちが晴れないが、許してやるとしよう。
「……ほら」
三成は己の羽織を左近にかけようとして、止まる。
「…なんで俺がこんな事までしてやらねば…」
そこまで言って三成は口を塞いだ。
俺は阿呆なのか、寝ている者の傍で喋り散らして…
寝ているよな?とそっと覗き込む。
「っ…!?きさ…!!?」
「起こしたのは殿ではありませんか?」
三成が急いで体勢を立て直そうと身を引く。
「逃がせませぬな」
しかし延びた左近の両手に囚われて、其の侭抱き込まれる。
「謀ったな…!」
そして押さえ込まれた三成の顔に、艶のある黒髪が筋を作った。
「誘ったな!の間違いでしょう?」
黒い筋が逃げたと思えば、お前の顔が真上にあった。
咽返る様な沈香の香が背筋を粟立たせる。