雪月花





***松葉酒***



深々と六花が舞い降りる。
ここまで風が無い日も稀有である。
「今年も、恙無くって感じだねぇ…」
慶次は兼続に酒を差し向ける。
「…そうだな、緩やかに今年も往くな」
兼続は慶次に笑んで、酒を貰う。
か細い雪だけが、音も無く降り積もる。
「…歳は取りたくないねぇ…」
立膝で慶次は自嘲気味に笑ってみせた。
火鉢で温めてはいるが、息を吐けば二人しか居ない部屋である。
暗い部屋に白い吐息が掻き消える。
「…私は、そうは思わない」
正座している兼続は薄幸な笑みを浮かべた。
疎かに吐く息はもはや色さえ付きはしない。
慶次は視線を逸らせた。
もう歳は取りたくない。
若い時分に帰ろうとは思わない、そういうことではない。
ただ、時が経つのが嫌なのだ。
別離が歳を越えるごとに、近づいてくるような気がしてならないから。
いつかそいつに掴まえられて、あんたに逢えなくなる。
…そのような事ばかり、最近は考えてしまう。
「…過ぎていった今が、そなたとの仲を深めてくれる気がするのだ」
兼続は、干された盃を差し出さない慶次に近寄った。
そして手を支え、酒を充たしてやる。
「また過ぎた今が、そなたを解らせてくれる気がするのだ」
止まってしまっては、そなたを知れなくなる。
兼続は、違うか?と慶次を見上げた。
闇夜に凍て付く白が積もり続ける。
慶次は、違いねぇ…と愛しい白皙の頬に手を添えた。

気が付けばまた増える想い出が。
未練と名を変えてしまいそうで。

大河記念第十二弾。
これにて、大河秒読企画は終了です。
ありがとうございました。