雪月花





***紅粉清娥***



他愛無い事だが、それですら理由を見つけたくなる。
例えば、今みたいに…
年季の入った廊下は踏みしめるたび小さな悲鳴を上げる。
だが、お目当てはそんなことは全く気にならないのか、あるいは気付かないのか。
庭先の枯山水を眺めていた。
そんなあんたが纏う霊的な雰囲気は何処までも清廉。
見入っているのか、魅入られているのか…
白い肌が、夕闇に吸い込まれていとも怪しく浮かび上がっていた。
「兼続」
兼続の横顔はこちらを向かないが、瞳に光が宿って少し揺れた。
慶次は至極当然とばかりに隣に腰を下ろす。
恐ろしくも整って婀娜を含む顔が微かに俺を捉まえる。
「…おぉ、慶次か。」
「…お邪魔かい?」
前傾になり慶次は兼続と視線を合わせた。
「いいや…、今宵は星月夜よな…」
心は此処にあらずってな感じかね。
慶次は兼続の袖に手を差し入れ、組んである左手を袖から引っ張り出した。
「…冷たい」
「温いな…」
兼続は慶次の少し乱暴な所作はには言及はしなかった。
そして慶次の手の暖かさに漸く心を体にまで戻したようだった。
「…ずっと手を組んでいたにしては冷た過ぎる気がするんだが…」
慶次は不思議と兼続の冷たい手を握る。
「…きっと、暖めてくれる者を待っていたのだが、遅過ぎて所在をなくしていたのだろう。」
慶次は呆気に取られ、兼続は意地悪げに口角を上げた。
「今日は来ぬのかと、諦めればやってきて…手が冷たいなどと…」
凍て付く指先に力が篭った。
「殺生な虎だな…」
何だ?ってことは…
「…今日は俺が手を握りたい気分だって…知ってたってことかい?」
慶次は顔を近づけて問いかける。
「想像に任せるさ…」
そう言って俺の頬に触れた右手は可笑しなことに温かい。
どうしちまったかね。
俺は、調子に乗っちまいそうだよ。

行き場をなくし冷えて凍ったその手が指が。
俺のせいだと言うのなら。

大河記念第四弾。