雪月花





***氷魂雪魄***



俺の知ってるこの男は、屈託が無くて朗らか。
純粋な展望を夢を語るように話してくれる。
だが、時折見せる参謀らしさが。
この男を途轍もなく狡猾に彩る。
…損してんのか、得してんのか…
「ねぇ?」
慶次は疑問詞を投げかけながら色の薄い耳朶に触れ抓んだ。
兼続は何が言いたいと瞳だけを慶次に向ける。
書物を読んでいた手前、それは必然的に見上げたかたちとなる。
「…あんたって、あんまり上手に生きて無いさなぁ…」
「…出し抜けに何を言うかと思えば…」
兼続は呆れたとまた書物に視線を落し、文面に視線を走らせる。
「たった一人の主君の為に奔走してんのになぁ」
当たり前だと視線を落したままの兼続は言う。
「この…凄んでも寛厚そうな顔で、切り人だからかねぇ…」
そうか…と、反応の薄い兼続。
慶次は両耳を塞いでやって、軽い力を入れて上を向かせた。
「あんたは、惚れた男を光らせようと躍起なだけなのにな。」
兼続は最初はぽかんと呆気にとられ慶次を見詰めた。
しかし瞬く間に顔を染め、慶次の更に何かを言いそうな口を塞いだ。
「なんなのだそなたはっ!さっきからぁっ!」
慶次は口をあけて、押し込められている指を噛んだ。
うゎ!と兼続は手を退ける。
「だからさ、涼しく爽やかな美形は損するって話だ」
兼続は今度は慶次の額に手を差し伸べて押し遣る。
「この痴れ者っ、指を噛みおって!虎かそなたはっ」
慶次は兼続の反応に満足して、ははっと豪快に笑った。
そして瞳を閉じながら、今の儘のあんたで居て欲しいと言った。
兼続の動作が止まる。
「…俺だけで良いからなぁ、」
再度開かれた慶次の瞳は妙に真摯。
「あんたがこんなに純だって知ってんの」
兼続は思い切り慶次を突き飛ばした。
慶次は分かって居たよとばかりに顔を固定していた力を緩め兼続から離れる。
兼続の読んでいた冊子が音を立てて落ちた。
行儀良い正座が崩れて、片手を床について。
斜め下を、顔を赤らめながら見ている目に、掛かる黒髪。
「今更なのに、まったく初心だねぇ」
慶次は満足そうに笑う。
まぁ、でも。
他の奴には切れ者で近寄り難いと思われるぐらいで丁度良い。
兼続は、そなたの前では調子が狂うと本を拾って顔を背けた。
そんな素振りを見る程に込上げる愛おしさったら…
あんたにゃ分かんないんだろうねぇ…

雪や氷を冷たいと避ける奴も居れば。
その清らかさを好きだと近寄る奴もいるんだよ。

大河記念第三弾。
祝・直江役決定。