繽紛





拈華微笑



可哀相な事をするだなどと言い、そなたは茎の折られた曼珠沙華を、着物を脱いでそれに集めた。
気味が悪いと避けられ、恐ろしいと忌み嫌われる深紅の花。
稚い幼子が、持った小枝を太刀に見立てて其れを薙ぎろうが、だれも何も言わないような花。
なのに。
「…何をするのだ?」
ひどく心外だと言いそうな目で、その男は言った。
「庵にもって帰るのさ。今日はこれで一献…月も出てるし…ねぇ?」
まただ。
私は心底この男の心の中を洗い浚いに見てみたいと思う。
「…家が炎に捲かれるやもしれんぞ、そなたが噂や迷信を信じないのは皆知っているが…」
農民が引っ繰り返っても着れなさそうな羽織で、茎から白い汁を垂らす哀れな花を受け止める。
例えばそれが桜なら。誰が咎めよう。
花などどうでもいい私でさえそう思う。
「……別嬪さんよ、花は桜や梅だけじゃないんだぜ?………」
首から落とされた紅い花を救い上げるように持ち上げ、そなたは私に掲げかけた。
「花が…綻ぶのも、毀れるのも、咲くのも、散るのも、…枯れるのさえ、私には然程興味も無い。」
それより、早くして欲しいのが正直なところである。
馬を下りて偶には歩こうなんて言われて、この様である。
偶にはなどと思って歩いたのが、そもそもの始まり。
兼続はそうおもっていた、だが綺麗だななんて当たり障りの無い言葉を発しようとした。
刹那。
顔に揉み拉かれた夥しい花弁を投げつけられた。
瞬時に目の前が暗くなり、深紅に満ちて、視界が開けた先に、そなたの双眸。
「な……何をするのだ、……幾らなんでも無礼」
「不幸にも彼岸に咲くばっかりに、不吉だと呪われた花の意趣返しだと思いな。」
そなたは首だけになった、その花を総て拾うと、松風に跨り何も言わず。
ただ冷たい目で一瞥して、鐙で腹を蹴って庵へと行った。
私は、髪や服に張り付いた花弁を払いながら、舞い落ちる其れを見た。
「…訳の分からぬ…」
私が、詩を詠うのは、認めさせるが為。花を愛でるのは、皆が好む為。
舞を舞うのは嗜み、執政を務めるのは、必要とされるが為ゆえ。
「…訳が、訳が分らぬっ!」
そんな私を、一目見ただけで、惚れたといったくせに。
さして好かれようとする仕草を見せるわけでもない。
「大体、可笑しいのだ、毎年花など咲くのに。着物の方が、何倍も価値があるではないか!」
こんどこそ、愛想が尽きた。
私は花鳥風月を愛でながら生きるほど、暇ではない。
このような事をしているのでさえ、時間を無駄に浪費しいるだけなのだ。
ふと目の端に、茎を折られず残っている曼珠沙華を見つけた。
「…このようなものっ…!」
近づき、差料に手を掛け、鯉口を切った。
だが、何故か、流れたのは、茎からの液ではなくて。
「分らない…」
理解できない事が悔しくて、涙が落ちた。