七十二





*倉庚鳴*



庵の近くに竹林があるから、俺の周りには鶯がよく鳴いている。
競いあわせなくても、勝手に鳴いて縄張りを主張している。
あぁ、もっとやれ、おおもっとやれ!
ただ。俺も住んでるってのは忘れてくれるなよ。
「慶次、そなたは本当に喧嘩が好きだな!」
兼続が茶を啜りつつ笑った。
「そりゃ、喧嘩は華だぜ何より華々しいことこの上ねぇ」
あいつらを見てみろよ。
綺麗な声して喧嘩吹っかけあってんだから、傾いてるねぇ!!
そんな鳴き声で歌を作ってる俺達は、もっとも傾奇者なんだろうけどな。
「内が下世話な痴情の縺れだったらどうする」
「俺の女房とねんごろたぁ、どの面下げて逢いにこれんだぁ?みたいなか?」
俺の喧嘩腰の低い声に、兼続は膝を叩いて笑った。
「元はと言えば俺の愛妻攫った奴が、言えた口か!?とかか?」
そして相槌を打つように喧嘩腰な声音で返してきた。
これは大声出して笑うしかないだろう。
二人は大の大人がよく言うわなんて大笑いした。
「…なんてな話をしてたら、何時の間にか声さえ聞こえなくなっちまった」
「本当だな、要らぬ解説が癪に障ったのかもしれんぞ」
「違いないねぇ…」
慶次は笑って、そういや二人とも歌を作れて居ない事に気付いた。
何、偶には風流を斜から眺めて馬鹿やって、此の世を過ぎるのも悪くない。