七十二





*桃始華*



桃の蕾が少しでは有るが解れているのを見つけた。
偶然といえば偶然なのだ、雪を下ろしているときだ。
手元がすべって、除雪した雪を桃の木に直撃させてしまったから。
慌てて折れては居ないかと近寄れば、最初から積もった雪で解らなかったが。
ちゃんと蕾を付けていたのだ。
この寒い土地でも、雪があっても、桃は咲こうとしている。
春を見せ付けられたような心地のまま、残りの雪を落としたな。
「と、言う訳でだ慶次、桃が咲くぞ!」
兼続は雪深い道をやってきた慶次に、忘れていた自然を改めて見知ったと伝えた。
ここのとろこ、四季の移り変わりにさえ疎かった。
まるで自分が桃の咲く前兆を最初に発見したかのごとく慶次に話す。
慶次は何度も相槌を打ちながら、笑顔だ。
「…で、その色は?」
兼続が十分話し終わった頃を見計らい、慶次がぽつりと疑問を投げる。
「桃だぞ?薄桃に決まっているではないか…?」
続いて形は?と言われる。
「…そなた馬鹿にしているのか、掌に納まる程の実だろうが」
慶次は相変らずの笑顔で続ける。
「…食い意地が張ってるね、俺は花の容姿を聞いたんだよ」
な、何?
兼続は己の口を覆い、己の言葉を復唱してみた。
あぁ、そんな、何故途中からこんな…!
嵌められたと思うより、自分の思考回路の食い意地の張っていることときたら…!
「…今のは、無かった事にしてくれぬか…」
「…桃が咲いたねぇ」
繕ったのに、桃が咲いた!?
解らぬ全く解らぬ、時折慶次は変わったことをい…
慶次は兼続の頬に手を添えながら、それがあんただよと言いたげに微笑み続けていた。