七十二





*土潤溽暑*



土が湿って蒸し暑い。
「兼続、冬は未だかい」
暑さには滅法強そうな見てくれにも関わらず、扇子を片手に言う男。
「…雪に埋もれる折には、夏は未だかと急かすくせに」
男は道理だと笑って、板間に寝転ぶ。
その首筋にはじわりと汗が滲んでいる。
兼続は先程絞った冷たい手拭を、慶次に投げて寄越してやる。
すると慶次は何かが飛んでくるのを感じたのだろう。
寝転がっているとは思えぬ速さで、身を起して布を握りつぶした。
「……なんだい、なんだい…」
手に持った其れが冷たいのに驚いて、慶次は兼続に言った。
「…あんたの手拭だろう?」
「そなたの方が暑そうだからな」
見た目の話でもあるが…
私はまだ襦袢一枚で転がりまわらなければならない程暑いとは思わない。
慶次は、それじゃ遠慮なく。と上半身を肌蹴て首筋や胸を拭いた。
兼続は意識せずその姿を見ていた。
相変らず美しいまでの体躯だと見惚れなが…
「…兼続、あんた助平だねぇ…」
はたと気付いて視線を逸らすが、其れこそが言葉を肯定しているのに他ならない。
「そなたが悪いのだ!」
苦し紛れの言葉に慶次は、俺のせいかぃ?と苦笑う。