七十二





*鷹乃学習*



「飛ぶ事を覚えたなら、きっと飛ばずには居られない」
慶次は竹ひごに何やら傍を削った羽を付けるという、細工をしている。
小柄で竹を削った屑が、縁側に転がっている。
知恵熱を冷まそうと隣の部屋に移ったらそんなものを見てしまった。
節くれて立った指で嬉々として没頭している様は、何やら微笑ましい。
そしてその独り言もまた、童のようで。
慶次が薄く削いだ竹を光に翳した。
反り具合でも確認しているのだろう。
「…飛ばずには居られねぇ…」
そういい、外の明るさを求めるように視線を庭に移した。
庭先が妙に柔らかくその言葉を消した気がする。
刹那に背筋が粟立った。
「慶次!」
兼続は思わず腹から声を出した。
徐に慶次が振り返る。
「……怒鳴らなくても、聴こえるぜ…?」
噴出した冷や汗に、硬い唾を飲む。
慶次が胡坐を崩して立ち上がり、近寄ってくる。
「おいおい…」
根の詰め過ぎだと、笑う顔が、どんな思いであんな言葉を吐いたのか。
考えるだけで、居ても立っても居られない。