七十二





*鵙始鳴*



それは梅雨には似合うはずも無い、鮮やかな橙色。
熟しすぎてぐちゃぐちゃになりそうな、透き通った柿の如く。
夕方が焼けていたから。
尚更、俺の心を乱して止まない。
いつも五月蝿くああだこうだと話をするのに。
俺の庵で俺の部屋で端坐して、俺が帰ってくるのを待ってたなんて。
そんなことを一言、言うんだ。
升目の障子が橙に染まり、骨が黒く沈むよう。
障子を引いた時のあの匂うような伏せた瞳と横顔が。
抑え様としている衝動を狂わしてならない。
「…明日は晴れるな」
後光が輪郭を明るく縁取り、白い肌が黒い陰との陰影で思った以上に艶めく。
一瞬光を失うあんたの瞳がふと闇に誘っているかのようにさえ思えてくる。
俺が二歩ほど近づくと、あんたは急に立ち上がった。
顔は冷静だが、何かに感づいたのかもしれない。
俺はそれでも近づいた、止められなかった。
否、最早抑えようなんて思わなかった。
迸る欲望が、ふと怯えたような瞳で俺を見たあんたのせいで、どうしようもない。
「慶…!?」
俺が肩を掴んだ刹那、あんたは俺の腕を押し上げて身を翻し障子に手を掛けた。
逃げられると思ったらもう、言葉を発する時間さえ惜しい。
慶次は後ろから兼続の口を塞いで床に押さえ込んだ。
兼続が手を掛けていた障子が、その拍子に眩しい外界を晒す。
俺は夢中であんたの袷に手を滑り込ませて着物を割る。
口では髪紐を引き解き、足は暴れる体を押さえ付ける。
がたがたと震える障子が振動で少しずつ開くたび、外は黒が濃さを増す。
涙とも汗とも唾液とも分らない物が、あんたの口を押さえた俺の手から垂れた。