*小暑至*
この手を離すのを躊躇うのは、慕情を疑っているわけじゃない。
肌蹴た肩を其の侭に、うつ伏せに寝ているその頬に軽く触れる。
乱れた黒髪を手櫛で直してやって、俺の着物を夜着の代わりに掛けてやる。
人肌の温もりが少しだけ暑苦しくも感じられるようになった夜。
それでも手を重ねていたいと願うのは。
「…俺は何度恋に落ちたら気が済むのだろう…」
眷恋が止まらないのだ。
一つ一つに惚れ直すなんて、どうしたのだろう。
慶次は傍に向かい合うように寝そべり、寄り添った。
伏せた瞼に深い睫。甘そうな唇。
もしあんたが女なら、誰にも見せたくない。
そう思う程に、目の前の男が愛しくて堪らない。
何度も何度も春が俺を襲う。
己でも戸惑うほどに、俺はあんたに、恋に落ち続ける。
慶次は半開きになっている掌に、己の掌を滑り込ませ指を絡めた。
握り返して欲しい、寝ていてまでも俺を求めて欲しい。
些細で良い、反応してくれ。
重ねた手を眺めながら、慶次は念じた。
するとその手が本当に俺を握り返してくれたのだ。
信じ難くて、目を見開く。
「……醒めない夢など、あるものなんだな…」
はっきりしない声が慶次の耳に届いた。
顔を見ると、優しい横顔が笑んでいて、重ねた指が肌を撫でるように動いた。
「…あんたはどれだけ俺を虜にするんだい…」
夢でも手を繋いでいただなんて。
恋に絆されて、どうにかなってしまいそうだ。
終