七十二





*苦菜秀*



小さな菊の群れが生い茂っている。
山菜を取りに来たら、まぁ何と言おうか悪玉登場と言うところ。
間違えてこいつも一緒に千切ってしまった暁には。
水で綺麗に晒さなきゃ苦くて食えたものじゃない。
それにしても神様は酷な事をなさるもの。
こんな可愛らしい花に態々苦味を持たせるのだ。
お蔭で苦菜なんて似てもにつかぬ名前を付けられる。
「…完璧なんて面白くもなんともないけどね」
この世界は何処か欠けているから面白いのだ。
そこを補おうと生きるのが、意味なんだ。
「…それにしても愛らしいねぇ…」
慶次はしゃがみこんだまま、この花で歌を考え始める。
自分が何の為に土手に赴いたのかなんて、忘れてしまっている。
「…慶次。」
「ぅお!?」
笊を片手に慶次が振り向くと、そこには鍬を持った兼続。
「…そなたな、人を呼んで置いてこんな所で何をしているんだ」
そう言えば、庭の桜の対に橘を植えようとしていたのを忘れていた。
私はこれでも忙しいのだぞ。と綺麗な顔を不機嫌にして俺を睨んでいる。
「……なに、あんたに思いを馳せていたのさ」
慶次は苦菜を茎から採り、兼続に差し出した。
「…嬉しいとでも言うと思ったか?…」
早く来い、と踵を返す兼続に、慶次は完璧なんてね…と笑って花を捨てた。