七十二





*王瓜生*



夜にしか咲けぬ花を、そなたは摘んできて笑う。
言い分曰く、どいつもこいつも実を結んでるのに、遅れて咲く花は実をなす前に枯れてしまうから。
まぁもう実が大きくなり始めているのに、遅れて咲くのは…
何と言おうか、一抹の哀れを感じる、が。
「…婚期を過ぎて、夜にしか咲けぬ花を摘むなど、慈悲が無いのにも程があるだろう」
夜分済まないと、私の前で花を一輪翳している慶次。
その慶次が、変わった形の花を己の顔に近づけて匂いを嗅ぎながら言う。
「舞台に遅れた、夜でしか咲けない乙女を、娶ったの間違いだ。」
二度も言わなくても分る、時々慶次は気障でいけない。
「…娶ったのであれば責任を取ってやれ、ほら閨は、あれを使うが良い」
兼続は、また冊子に目を落とし、指で奥の部屋を指した。
だがはて、人と花との目合いはどちらの子孫が出来るのか?
なんて冗談半分で慶次を見上げたら。
「………配合には、俺を受け止められる媒体が必要だねぇ…」
慶次は酷く厭らしい笑顔で兼続の髪紐を引き解き、白い耳に花を挿した。
「口説く口実としては花が哀れだ…」
兼続は本を閉じながら、慶次を睨める。
「本当に哀れだと思うなら、俺の思いをその花に伝えてくれよ。」
態と花の挿さっていない耳に慶次はしっとりと囁く。
熱っぽさに、突き放そうとした刹那、白き花に金色の太陽が降りかかる。