七十二

*蚯蚓出*

蚯蚓が鳴いている、土に埋もれている身を知らしめるように。
いや、もしかしたら、ここに居るといっているのかもしれない。
だとしたら、随分と可愛らしい気がするのは、どうしてかな。
雨が降ると地上に這い出るこいつらは、雨でないと乾涸びて死んじまう。
雨でないとお天道様を仰げないって、可哀想だよなってのは俺の勝手なのかね。
庭先の花壇で、頭だか足だか知らんが投げ出されているのを見つけて慶次は思った。
そうそう、雨が降りそうといえばこの男だ。
「……慶次、早く中に入るが良い濡れてしまうぞ？」
雨になるとこの男は俺の庵にやってきては、己の屋敷のように振舞うのだ。
「…雨にならないとお目に掛かれないんだ」
ぽつぽつと雫が地面を穿ち始める。
兼続は興味有り気に、地に降りて慶次の傍に寄った。
蚯蚓が、土に塗れて蠢いている。
「…生命の脈動だな」
雨音の落ちる音が段々忙しくなる。
目を細めている兼続に、俺は悪戯心を覚えて、中腰の袖を引っ張った。
「!!?」
ふらついて何とか持ち直して、眉間に皺を寄せた兼続の耳に。
「…動…が…、…猥…ね」
何て囁いてみた。
途端兼続は、目を見開き俺を力尽くで蚯蚓の方に押し遣ったのだ。
そして捨て台詞。
「戯れていろこの痴れ者っ!!」
慶次はその反応は予想済みで、にこっと笑うだけだった。
兼続は、頬を染めて、もう知らんと俺の庵に帰っていった。
雨が降らなきゃあんたは来ない、何、強ち間違っちゃいないだろう？

終