七十二





*螻■鳴*



大合唱が好きだというそなたは。
賑やかなのが好きそうだから分る気がした。
あんたは?と聞かれ、私もだと答えようとして。
さり気ないのが好きだと言葉を換えた。
どうして?と会話が弾むからだ。
そなたとは、どんな事でも話をして、いたいから。
ふと庭先から蛙の鳴き声。
気付いたのは慶次の方、徐に立ち上がり廊下の柱に寄りかかるように外を見た。
兼続は真似するわけではないが、追いかけるように傍に寄った。
どこからともなく鳴き声が共鳴しだす。
慶次の唇が微かに動いたのが分ったので慌てて耳を傾ける。
「……が…んで……か、教えてやろうか?」
呟く声は、語りかけるというよりは、呟いて居るようで。
視線が絡んだ刹那、そなたは私の腰を掻き抱いて頬に触れた。
「あんたが声を抑える必要が無くなるからさ」
などと耳元で囁かれては、雪崩れそうな体を支えている芯が蕩けてしまう。
蛙の鳴き声が、癖になりそうなほど五月蝿く響く。
「囃し立てられて、もうどうにも止まりそうにねぇ…」
前言撤回。
やはり私も、賑やか方が、好きである。