七十二





*鳴鳩払其羽*



「月と日と星か…」
その口から出る言葉はそれだけ。
美しい言葉しか喋る事を許されないというのは。
ある種の禁断を思わせて戒めの如く心に響く。
滅多に聞けない鳴き声を、気分転換に庭に出た刹那に聞いた。
どんなに叫ぼうとも、月と日と星。
本当に微かに囁こうとも、月と日と星。
「分らぬよ、解れぬよ…」
兼続が何処からか木霊する囀りに呟くと、微風が急に木々を薙いだ。
若葉が日に当たりその艶の麗しい体を輝かせる。
眩しい、ただ只管に。
「……兼続?」
軒先で呆けている兼続を見つけ、慶次が近寄り声をかけた。
「ツキヒホシ」
兼続は慶次の顔を窺わず、呟いた。
新芽が揺れるのを止める。
「ツキヒホシ」
ふと風が凪いだ。
慶次は立ち尽くしているような兼続の体に、そっと歩み寄る。
「…ホイホイホイ」
その甘く嗄れた、愛しき声音が私に答えた。
咄嗟に見上げると其処には泣きたくなるほどの莞爾。
やがて三光鳥が飛び立った。
「……」
鳴き声が止む。
「…何を考えてるかなんて手に取るように分るぜ?」
抱き締められたら、最早声さえ出せなくなって。
金色の煌きに目が眩み、言葉が殺される。