七十二





*萍始生*



芽吹いてからでは遅いんだ。
あんたの為に何かがしたいと思う。
其れは狂気なのだろうか、愛しさに名を借りた。
年甲斐も無く、泣きすぎた頭が痛い。
奥歯も噛み締めすぎて調子が悪い。
慶次は捻くれている。
そう笑って、晩酌でもどうだと誘った顔が優しかった。
私の前では繕うなよ。
裏手で胸を叩かれて何かが溢れそうに、なる。
「惚れたという言の葉に、隠すな」
何を?なんて聞いてしまってはいけない。
ここはあやふやに暈してしまわなければならない。
己で隠しこんでいる何かを晒しそうになって、俺は口を噤んだ。
それから暫く盃を傾けあう。
居心地が悪いのに、傍に居て欲しい。
引っ掻き回されそうなのに、どこかで望んでいる自分が居る。
「強情なのは、好かれぬぞ?」
晩酌も酒が切れたら終わりを迎える。
またな、と温かさを置いて消えた兼続の座していた場所は。
否応もなく欠落したと叫んでいるようだ。
薄い月を見上げ、慶次は目を閉じる。
どうしようこれ以上傍に居てはいけない。
根が張った種は、宿したその身を殺すのだ。
「やめてくれ…」
もう遅いと本能が語るのに、涙が頬を伝う。
芽吹いたからには手遅れなんだ。